クイーン・エリザベス2(Queen Elizabeth 2、以下QE2)は、英国のキュナード・ライン社が運航した20世紀を代表する豪華客船である。その優雅な船影と約40年にわたる華やかな歴史から「洋上の女王」と称され、世界中の人々から深く愛された。
QE2は昭和44年(1969年)に就航した。全長293.5メートル、総トン数70,327トンを誇り、大西洋横断定期航路と世界一周クルーズの両方に対応できる画期的な客船として設計された。高速性能と豪華な内装を両立し、客船の黄金時代を象徴する存在であった。
その長い航海の中で、QE2は数々の歴史の舞台となった。特筆すべきは1982年のフォークランド紛争である。英国政府に徴用され、客船から兵員輸送船へと急遽改装された。約3,000人の兵士を乗せて南大西洋へ向かったエピソードは、QE2が単なる豪華客船ではなかったことを物語る。現役期間中に達成した大西洋横断は800回以上、世界一周は25回を数え、総航行距離は月と地球を13往復する距離に相当する。
日本との関わりも深く、特に横浜港大さん橋に停泊する姿は、港町の風物詩として多くの人々の記憶に刻まれている。黒く優美な船体と、キュナード・カラーである赤いファンネル(煙突)を持つQE2の姿は、横浜港の象徴的な光景の一つであった。
技術の進歩と時代の変化に伴い、平成20年(2008年)11月、多くのファンに惜しまれながら現役を引退した。その後、アラブ首長国連邦のドバイに売却され、大規模な改修を経て海上ホテル「クイーン・エリザベス2・ホテル」として生まれ変わった。現在はドバイのミナ・ラシッド港に係留され、宿泊施設やレストラン、博物館として、かつての輝きを今に伝えている。QE2は単なる交通手段ではなく、一つの時代を築いた文化遺産として、今なお語り継がれている。
