2012年9月22日と23日に開催された東京駅のプロジェクションマッピングは、「TOKYO STATION VISION」と名付けられた。これは、約5年間にわたる東京駅丸の内駅舎の保存・復原工事の完成を祝う記念イベントであり、復原されたばかりの壮麗な赤レンガ駅舎を巨大なスクリーンに見立てた、当時としては国内最大級の試みであった。
このイベントでは、幅約120メートル、高さ約30メートルの駅舎壁面に46台の高輝度プロジェクターを用いて映像が投影された。その内容は、東京駅が誕生した1914年から未来へと続く約100年の歴史を壮大な物語として表現したものである。過去の蒸気機関車や未来的な列車が走り抜け、関東大震災や戦災からの復興といった歴史的場面が、駅舎のドームやレリーフといった建築構造を巧みに活かした立体的な演出で映し出された。色鮮やかな光が駅舎を再構築したり、幾何学模様が万華鏡のように展開したりする幻想的なシーンは、音楽と完璧に融合し、観客を圧倒するスペクタクルを生み出した。
しかし、この画期的なイベントはメディアで大きく報じられたことで、主催者の想定をはるかに超える観客が殺到した。駅前広場は身動きが取れないほどの大混雑となり、安全確保が困難と判断され、2日目の公演は途中で中止されるという事態に至った。
この「TOKYO STATION VISION」は、その圧倒的な映像美で日本におけるプロジェクションマッピングの認知度を飛躍的に高めた金字塔的なイベントとなった。同時に、混雑による中止という教訓は、その後の大規模屋外イベントの安全対策のあり方に大きな影響を与えた。以降、東京駅では年末の「東京ミチテラス」などで何度かプロジェクションマッピングが実施されたが、その際は事前申込制や厳格な入場規制が敷かれるようになった。
2012年のイベントは、歴史的建造物と最新技術の融合による新たな表現の可能性を示し、多くの人々の記憶に刻まれた。その後のイベント運営にも大きな示唆を与えた点を含め、日本のプロジェクションマッピング史を語る上で欠かせない象徴的な出来事である。