横浜港のシンボルとして新港ふ頭に佇む「ハンマーヘッドクレーン」は、日本の港湾史を物語る貴重な産業遺産である。その名は、巨大なジブ(腕)と機械室が金づち(ハンマー)の頭部に似た形状を持つことに由来する。
このクレーンが設置されたのは大正3年(1914年)のことである。当時、日本の主要港では荷役の機械化が急務とされており、横浜港の貨物取扱能力を飛躍的に向上させるため、イギリスのコーワンス・シェルドン社から導入された。これは日本で初めて港湾荷役専用に設置された電動式のクレーンであり、50トンの吊り上げ能力を誇る最新鋭の設備であった。その登場は、日本の港湾近代化を象徴する画期的な出来事だったのである。
ハンマーヘッドクレーンの歴史は、横浜が経験した幾多の困難を乗り越えてきた歴史でもある。1923年の関東大震災では、周辺の施設が壊滅的な被害を受ける中で奇跡的に倒壊を免れ、その後の横浜港の復旧・復興作業に絶大な力を発揮した。また、第二次世界大戦後の連合国軍による接収時代も稼働を続け、戦後日本の経済復興を支える重要な役割を担った。設置から2001年に役目を終えるまで、約88年間にわたって現役で稼働し続けた事実は、その卓越した技術と堅牢性を証明している。
現役引退後、その歴史的・技術的価値が改めて評価され、2007年には土木学会の「選奨土木遺産」、および経済産業省の「近代化産業遺産」に認定された。現在は稼働こそしていないが、当時の姿のまま現地で保存されている。夜間にはライトアップが施され、みなとみらいの夜景を構成する美しい光景の一つとなっている。
さらに、このクレーンを中心に周辺一帯は「横浜ハンマーヘッド」として再開発され、客船ターミナルや商業施設、ホテルが集まる新たな賑わいの拠点となった。一世紀以上の時を超えて横浜港の発展を見守り続けてきたこのクレーンは、単なる機械遺産ではなく、過去と現在をつなぎ、横浜の歴史を未来に伝える生きた証人なのである。
