箱根板橋駅 初代 駅舎 / 箱根登山電車

箱根登山電車(箱根登山鉄道)の箱根板橋駅に、2018年(平成30年)まで存在した初代駅舎は、昭和初期の面影を色濃く残す貴重な木造建築であった。1935年(昭和10年)10月1日の開業から約83年間にわたり、地域の玄関口としての役割を担い続けた。その歴史的価値と風情ある佇まいは、利用者や鉄道愛好家から深く親しまれていた。

初代駅舎は、木造平屋建てに寄棟屋根を載せた、昭和初期における地方私鉄駅舎の典型的なスタイルであった。外壁は横板下見板張りで、モスグリーンのトタン屋根とともに温かみのある印象を与えていた。正面には庇を兼ねた車寄せが設けられ、駅舎全体のデザインにアクセントを与えていた。木製の窓枠や内部に残る手動の木製ラッチが設置された改札口など、開業当時の趣を感じさせる要素が多く保たれていたのが大きな特徴である。こうした往時の雰囲気を伝える佇まいは、地方私鉄の歴史を物語る貴重な建築遺産として多くの人々に愛され続けた。

この駅舎は、単なる交通施設ではなく、箱根板橋の町の発展と人々の暮らしを静かに見守り続けてきた歴史の証人であった。開業当初は小田原〜箱根湯本間を結ぶ鉄道線のほか、軌道線(小田原町内線、のちの小田原市内線)も乗り入れており、地域交通の結節点としての役割を果たしていた。昭和25年(1950年)には小田急電鉄が乗り入れ、軌道線は昭和31年(1956年)に廃止された。その後も駅は、通勤・通学客や箱根を目指す観光客を迎え続け、地域の変遷とともにあり続けた。その姿は、箱根登山電車(箱根登山鉄道)を象徴する風景の一つとして、多くの人々の記憶に刻まれている。

しかし、長年の使用による建物の老朽化や耐震性の問題、加えて現代的な設備整備の必要性もあって、建て替えが決定され、惜しまれつつも2018年(平成30年)にその長い歴史に幕を下ろした。

初代駅舎は解体されたが、その記憶とデザインは失われたわけではない。同年9月30日に供用を開始した二代目駅舎は、現代的な設備と機能性を備えつつも、初代駅舎の雰囲気を継承している。大屋根を強調した切妻風のシルエット、壁の色調や下見板張りを模した外観、縦長の窓の配置など、随所に初代駅舎への敬意が込められている。

箱根板橋駅の初代駅舎は、物理的には姿を消したが、その建築的価値と地域に根差した歴史は新しい駅舎に受け継がれ、町の記憶として生き続けている。

箱根板橋駅 初代駅舎 写真
改札口
箱根板橋駅 初代駅舎 写真
改札口
箱根板橋駅 初代駅舎 写真
箱根板橋駅 初代駅舎 写真
箱根板橋駅 初代駅舎 写真
箱根板橋駅 初代駅舎 外観写真
初代駅舎
箱根板橋駅 現駅舎 外観写真
二代目駅舎
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