神奈川県藤沢市、湘南台の街並みの中に突如として現れる近未来的な景観。1989年(平成元年)に「こども館」が竣工・開館し、翌1990年に全施設が完成した湘南台文化センターは、建築家・長谷川逸子(長谷川逸子・建築計画工房)の代表作であり、日本のポストモダン建築を代表する作品である。公開設計競技によって選ばれたこの建築は、従来の重厚で権威的な公共施設のイメージを軽やかに覆し、メタル素材と自然要素が交錯する「第2の自然」というコンセプトを体現している。
外観において最も象徴的なのは、敷地内に鎮座する二つの巨大な球体だ。手前に位置する、直径23mの地球儀をモチーフとした球体は、方形のパネルが鉄骨フレームに取り付けられた「こども館」。プラネタリウムや展示ホールを擁し、下半球部分はサスペンションアーチによって優雅に吊り下げられている。その奥に控える、直径37mの宇宙儀をモチーフとした球体は、正三角形を基本単位とするジオデシックドーム構造の「市民シアター」。幾何学的なパターンが織りなす立体的な表情は、本格的な劇場施設としての存在感を放っている。この二つの球体に異なる構造システムを採用した背景には、構造設計を担当した梅沢建築構造研究所の高度な技術力がある。それぞれの機能と空間特性に最適化された構造が、建築としての多様な表情を生み出している。これら未来的な大胆な造形は、見る者に強烈なインパクトを与え、ここが非日常への入口であることを直感させる。
しかし、この建築の真価は、派手な外観以上にその巧みな断面計画にある。敷地周辺は低層の住宅地であるため、巨大なボリュームを地上に露出させれば周辺環境を圧迫してしまう。そこで長谷川は、建物の大半を地下に埋設する手法をとった。地上レベルは人工地盤による回遊性をもつ屋上広場として開放され、地域住民が憩う公園としての役割を果たしている。
素材にはアルミのパンチングメタルが多用され、工業製品でありながら光や風を透過させ、時間帯や天候によって表情を変える有機的な皮膜を形成している。湘南台文化センターは、建築が単なる機能的な箱ではなく、人々の想像力を刺激するランドスケープになり得ることを証明した稀有な名建築である。







