神奈川県横浜市磯子区に位置する根岸駅は、隣接するENEOS根岸製油所から出荷される石油製品の鉄道輸送拠点である。首都圏や甲信越地方へのエネルギー供給を担うこの輸送で、日本石油輸送株式会社が所有するタキ1000形タンク車が中心的な役割を果たしている。
タキ1000形は1993年に登場したガソリン専用のタンク貨車で、設計上ガソリン輸送に特化している。最大の特徴は、最高速度95km/hに対応した高速性能にある。これにより旅客列車との速度差が縮まり、輸送効率が飛躍的に向上した。また、台枠を簡略化したフレームレス構造により軽量化しつつ、約45トンという大容量の積載量を実現している。根岸からの石油製品輸送列車には、このタキ1000形に加えて、灯油や軽油を輸送する他の形式のタンク車も連結されることがある。
この高性能なタキ1000形は、日本石油輸送株式会社(JOT)および日本オイルターミナルが中心に所有し、石油元売会社に提供している。緑とグレーに塗り分けられ、車体に「JOT」のロゴが記された車両は、根岸を発着するガソリン輸送の象徴的な存在である。加えて、他の石油会社系列が所有する異なる塗装のタキ1000形も運用されている。
根岸駅を起点とするガソリン中心の石油製品輸送列車は、主に北関東や甲信越地方へ向かう。代表的な行き先には、栃木県の宇都宮貨物ターミナル、群馬県の倉賀野、中央本線経由の八王子や竜王方面などがある。また、武蔵野線経由で根岸~蘇我間などの短距離輸送も行われている。これらの列車は、JR貨物のEH200形「ブルーサンダー」やEF210形「桃太郎」といった強力な電気機関車に牽引される。十数両規模のタキ1000形が連なる長大な編成は圧巻であり、日本の大動脈を支える物流の力強さを実感させる。
鉄道によるガソリン輸送は、一度に大量の製品を安全かつ安定的に運べるという大きな利点がある。トラック輸送に比べてCO2排出量が少なく、環境負荷の低減にも貢献するモーダルシフトの重要な担い手でもある。また、災害時に道路網が寸断された場合でも、鉄道が代替輸送路として機能する点は、事業継続計画(BCP)の観点からも極めて重要だ。東日本大震災の際には、一部路線が不通となる中でも他ルートを活用し燃料輸送を継続した実績がある。
根岸駅を拠点とするタキ1000形によるガソリン輸送は、単なる貨物輸送にとどまらない。それは、首都圏をはじめとする広範な地域の産業活動や市民生活を支える、不可欠な社会インフラである。高性能な車両、それを運用する企業、そして鉄道網が一体となり、今日も日本のエネルギー物流を確実に支えている。


